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人事の仕事を共有したいブログ

Vol. 1|新人採用担当が求人を作るときに考えたこと

採用を始めるときには現場(採用部門)と対話を行いますが、このとき何を確認するかはそれぞれに流儀があるかと思います。今回はそれを私なりに整理したいと思います。

 

疑問 ~人事は求人内容を理解しているか?~

本題の前に、私が気になっていたのは、この「現場との対話」を疎かにしている採用担当が意外と多いのではないか、ということです。ちなみに、私が転職して採用業務を始めたとき、現場からの採用要件の伝達は稟議の添付資料のみでした。当然人事は紙に書いてあること以上の説明はできませんので、エージェントにそのまま求人票を回すだけです。結果的に人事は現場が行っているプロジェクトの内容や用語もわからなくなっていました。

求人を「正確」に理解できていない例

上記は極端な例かもしれませんが、今までの経験に基づく思い込みをしていたり、エージェントの疑問に答えられないといったことはあるのではないでしょうか。例えば、

情報システム部を増員したいから社内SEを募集

情報システム部(情シス)なのだから職種は社内SEだろう、というのは突飛な推論ではないですが、情シスの業務は企業によってかなり異なります。社内で運用しているシステムを内製している場合は開発のできるエンジニアが必要です。一方、企画や調整は行うけれど実際の開発はベンダーに任せているという企業もあります。さらには、社員へのPCの支給やヘルプデスクの担当という場合はSEではなく「事務職」です。

「営業がなかなか集まらないので『販売』経験の方にも広げませんか?」

エージェントからよくある提案の一つが採用要件の緩和です。これ自体は悪いことではなく、目的のためには必要な場合もあります。例えば、営業はモノを売る仕事なので、同じように接客や販売をしていた方であればキャッチアップできる可能性がある。こう考えることで母集団を大きく拡大し、必要な人員を確保できることがあります。

しかし、それも「商品」や「顧客」、「営業方法」といった要素に左右されます。私が担当したポジションに携帯電話ショップへの営業担当というものがありました。携帯電話を扱うのだから業界知識のあるショップ店員さんは有力候補だよね、ということで必要条件には「携帯電話ショップでの販売経験」が入っていました。しかし、実際の業務は店長に自社製品を紹介して売上UPをサポートしたり、通信キャリアの本社に赴いて販促施策を打ち合わせたりするものでした。つまりお客様に買っていただくスキルよりも、ビジネスパーソンと会話して関係構築ができることの方が重要だったのです。

「~(専門用語)って何ですか?」

多くの場合、エージェントはその分野の専門知識を持っていません。もちろんそれはいいことではないので、中~高年収帯で専門毎に特化したチームを置いている所もあります。それでも、本職の人たちが使う用語を全て網羅しているわけではなく、社内用語に至っては当然わかりません。正確に内容を伝えられないと、わかる用語だけで引っかけて全然異なるスキルセットの方を紹介される、ということもあります。

このように、現場と丁寧に打ち合わせを行い、人事自身がポジションについて理解しなければいつまで経っても本当のターゲットに出会えないということがあります。

求人作成のためのヒアリング項目

ではどんなことを会話し、すり合わせればよいのか。一例をリストアップします。

  • 採用背景
  • 配属先情報
  • 任せたいミッション
  • ミッションに必要な経験スキル(と、あれば嬉しい経験スキル)
  • 望ましいマインド、コンピテンシー
  • 労働条件
  • 採用フロー
  • 想定するキャリアパス

採用背景はエージェントからも応募者からも聞かれることの多い項目です。本来的には、この理由によっては採用で充足すべきなのか、異動なのか、あるいはそもそも補充しないといった判断をすることもあります。

任せたいミッションも採用背景と繋がります。単に「〜の開発をする」というのと、「以前のものが古い言語で書かれているので新しい言語で作り直したい」という背景がわかっているのとでは、必要となる要件が変わってきます。

基本的には任せたいミッションの経験者を採用することになるので、必要なスキルは当該ミッションの経験者です。しかし、転職市場によっては難しいこともあるため、近い経験やスキルを持つ人の中から短期のキャッチアップを見込んで採用することもあります。このときにキャッチアップ時間(=教育コスト)の見込みはとても重要です。ポイントは、すべての条件を満たす人材はほぼいないということ。もう一つは、類似の業務を経験しているように見えても教育コストが大きく異なることがある、ということです。

必須条件を決める際の注意点

まず、自社と全く同じ業務を経験している人はほとんどいないという可能性を吟味してほしいと思います。特に技術系で多いのですが、私のエージェント時代にあったのは「~~のセンサを使って~~の開発経験のある方」という要件を頂いたものの、日本で~~を作っているの御社だけですよね?というケースでした。企画・事務系でも同様に、経験値にこだわり過ぎると本当は優秀な人を逃してしまう恐れがあります。

類似業務の注意点については、前述した営業と販売の例が当てはまります。モノを売る、と言う点で一致する要素もありますが、安易に結び付けるとキャッチアップが難しい場合があります。

人事の場合、制度企画ポジションで労務経験を必須とする求人があります。実際に給与計算等をしなくてはならないのならわかりますが、メインミッションとして「組織の活性化や文化強化のための制度改定」があるのなら不適切です。なぜなら、このミッションに必要なスキルは「分析や企画を通して変革を提案し、推進していく力」なのに対し、一般的な労務担当者に求められるのは、正確かつ安定的に処理する能力だからです。この違いは最悪で、スキルセットが異なるだけでなく生まれ持った志向性や得意不得意までズレている恐れがあります。このまま採用してしまうとお互いにとって不幸になるでしょう。

リスト中の「望ましいマインド、コンピテンシー」は、まさにこのような企画向きかどうかという観点が一つの要素です。職種ごとに求められる、あるいは特徴的な性格や行動パターンがありますので、現場と共に丁寧に言語化しましょう。これらを見極める一つの方法が適性検査です。個人的には、統計的な信頼性と妥当性が強く証明されているものを使いたいです。また面接で測る際には、反復されている行動や習慣を見つけるのがよいとされてます。狙って聞き出すのは難しいことが多いですが、発言の中で反復されている行動があれば、それは信憑性も高く入社後の再現性も高いと言えます。とはいえ面接は一般的に誤差が大きいと言われていますので、適性検査と組み合わせる等の工夫を行いましょう。

攻めの採用をするために『理想の候補者』をイメージする

以上がヒアリングできると最低限の求人を作成することができます。しかし、ブランド力の弱い企業は待っているだけではよい候補者が集まりません。積極的に魅力を打ち出し伝えていくためには、さらなる情報が必要です。

  • 該当する人は今どこにいそうか
  • その人はなぜ転職しようとしているか
  • なぜ自社が選ばれるか

募集しようとしている人物はどこで働いているだろうか、と想像すると採用の具体性が増します。その人が転職を考えるのはなぜだろうか。それを当社は叶えられるだろうか。いわゆるペルソナに基づいて応募者の行動をトレースすることで「そんなスーパーマンはいない」「いるがうちに来るはずがない」「この条件では魅力が無い」等、改善点が見えることがあります。同時に自社の強みを再認識したり、打ち出すべき魅力を発見できることもあります。これは現場と人事の会話の中でしか生まれず、エージェントでは絶対にわからないことなのでしっかりと伝えるようにしましょう。

以上、採用を始めるにあたって人事と現場(採用部門)とで行う会話を整理しました。人事が求人内容(ひいては現場業務)をよく理解すべきということですが、そうは言っても専門的過ぎてわからないということもあります。最近はエンジニア採用担当の求人が増えていますが、私も「エンジニア採用とはどこまでわかっている必要があるのだ?」という疑問がありました。採用に強い企業では現場が主体的に採用業務に関わっているケースも多くあります(スクラム採用)。その場合はエンジニア組織に採用担当がいて、スキルチェックもできるというケースもあるかもしれません。人事と現場の役割分担はどうするのがよいか、というテーマも面白いのでどこかで取り上げたいと思います。

プロローグ|人事と採用を学び続けたい

人事はどこで学べるか?

人事に関する書籍や記事はたくさんありますが、学問というより実務で役立つとなるとなかなか体系的にまとまっていないなと感じることがあります。しかも、本当に役立つ知識はベテラン人事さんから口伝で聞くことが多いのではないでしょうか。

一方で色々な企業の人事を見ていると、ちょっと物足りないと感じることが多くあります。労務に関して社労士資格を持っている方もいらっしゃるので一定の知識があったりもしますが、では時代に合わせて人事制度がブラッシュアップされているかというと、全然そんなことはありません。

率直なところ、日本の人事レベルは低いと思います。例えば採用だと、よくあるお見送り理由に「一貫性が無い」「他責傾向がある」「志望動機が曖昧」等がありますが、その軸は本当に入社後活躍と相関があるのでしょうか。もちろんケースバイケースですが、多くの担当者が経験と勘で判断しています。経験も大切ですが、多くの場合その中に自分がお見送りにした方のその後が含まれていないため、初めから偏ったサンプルを見ていることになります。そこで培われた「勘」はバイアスの塊と言えるでしょう。

一方で採用に強い企業もあります。その多くは人材系やメガベンチャーであり、それらの出身者が加わったベンチャーも高い採用力を持っていることがあります。

これらの企業が高いレベルで業務を行えているのは、自らの社内で検証しノウハウを生み出しているためです。自分や上司のやり方を疑い、慣れ親しんだフローを変えるのはとても難しいことです。加えて人事の業務、特に採用では様々な認知バイアスが働きます。とてもエネルギーの要ることですが、Googleですら自ら実証実験を行って採用手法を見直しているので、私たちはもっと真摯に調査/検証を行う必要があると思っています。

私自身はまだまだ知識も経験も足りませんが、某人材会社のノウハウやスタンスを活かすことで内定承諾率昨対比130%(最初の半期で180%)という結果に繋げることができました。この経験をベースに、社内外で学んだことご紹介していきます。